Kagawa Prefectural Gymnasium
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香川県立体育館の取り壊し案に関する声明

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香川県が2023年2月7日に、財政上の理由により、高松市にある旧香川県立体育館の取り壊しを発表したことは、私たちワールド・モニュメント財団(WMF)にとり、まさに驚愕に値することであり、また深く失望するものであります。ワールド・モニュメント財団(WMF) は、2018 年の「文化遺産ウォッチ」注1に旧香川県立体育館を選定しましたが、これは、いくつかの課題に直面しながらも地元地域社会で続く保存活動に多くの人々の注意を喚起するためのものでした。

旧香川県立体育館の文化遺産としての大きな価値の一つはその歴史に見て取れます。その体育館は、戦後日本における健康増進・体育向上という全国的な流れのなかで、地域復興の役割を期待され建てられました。戦災で約 8 割が焼失した港町高松においては、当時の金子正則香川県知事の尽力もあり、香川県内では他の公共施設や高校とともに多くのモダニズム建築が竣工しました。なかでも旧香川県立体育館は、全体を宙に浮かせた造形で高揚感をだすなど、港町高松に相応しいユニークな造形で、地元の人々には「船の体育館」と親しまれてきました。この建築が近代の日本や地域社会の発展を物語る遺産として貴重であることは自明です。独自の意匠で親しみやすい外観を持ち、港町高松ならではの景観を生み出し、戦後復興からの高松ならではのコミュニティーを生み出してきている、という社会的な役割を物語る文化遺産なのです。

また、プリツカー賞を受賞した建築家、丹下健三氏が設計した旧香川県立体育館は、当時の最先端技術とそれを実現させた日本のモダニズム建築として価値が高く、香川県内に多く残るモダニズム建築の代表作のひとつであります。まだ鉄骨材など強度や精度にバラつきがある時代に鉄筋コンクリート造、つり屋根構造という構造形式で大空間を実現し、しかもその形状が典型的な日本の木造船(和船)のそれに似るなど、その意匠には伝統的な要素と現代的な要素が独創的に融合されています。 文化財指定に値するものの、同じく高松にある香川県庁東庁舎が重要文化財指定を受けている反面、旧香川県立体育館は未指定のままです。 2014 年、屋根からの水漏れが発見され、老朽化による安全性への危惧により建物は閉鎖されました。そして新しい体育館の建設が始まったことも、旧体育館の保存環境に新たな試練をもたらすことになりました。

2018年以来、WMFは地元で活動を続ける「船の体育館再生の会(旧香川県立体育館保存の会)」と提携して、写真展、ワークショップ、講演会などの一連の活動を通じて、旧香川県立体育館を取り壊しの危機から救い保存されるように努めてきました。また、 2021年には、WMF は国立近現代建築資料館 と協力して、「丹下健三 1938-1970 戦前からオリンピック・万博まで」展 exhibitionを通じて、旧香川県立体育館の重要性を広く訴えました。このような WMF の試みは、コミュニティに根ざした諸機関・団体との官民協働を通じてモダニズム建築の保存に関わる意思決定プロセスに参加をする、というとても大切な活動です。

WMFは「危機に瀕するモダニズム Modernism at Risk」というプログラムなどを通じて世界各地でモダニズム建築の保存を訴えていますが、旧香川県立体育館と同じように取り壊しの危機にある前衛的な建物が数多くあるということは残念なことです。また、往々にして、保存上の課題となるのが、旧香川県立体育館の場合と同様に、それら建築を特徴づける革新的で実験的な意匠や、材料、および技術であるということは皮肉なことです。

*注1:WMF が 1996 年より隔年で、“緊急に保存・修復な どの措置が求められている文化遺産”を世界中からの申請を得て、選考しリストとしてまとめ、広く配 信し保護活動の必要性を訴えるというプログラムです。今までにマチュピチュなどの世界的に有名な文化遺産を含め多くの危機的状況にある文化遺産が選定され各地域社会の共同により保存に結びついています。